糖尿病網膜症
(とうにょうびょう もうまくしょう)
とは?
糖尿病によって血糖値の高い状態が何年も続くと、
網膜(ヒトの目をカメラに例えるとフィルムにあたる組織で眼球の内張りにあたる部位)の血管が障害されてきます。
血管は水道パイプのような役割をしていますが、パイプの壁に亀裂がはいったり、
穴が開いたりして中を流れる血液の成分が漏れ出てきます(網膜出血、硬性白斑、血管透過性亢進)。
また、中を流れる血液が固まりやすくなるなどして血管がつまり、血液の循環が悪くなってしまいます(軟性白斑、血管閉塞)。
この結果、隅々まで充分に血液がいきわたらなくなると酸素不足となり(網膜虚血)、
これが広がると新生血管というもろい血管が生えてきてしまいます(血管新生)。
この新生血管が破れると、本来透明な目の中の生卵の白身状の硝子体という部分が、
血液で濁るため見え難くなってしまいます(硝子体出血)。
さらに、新生血管を足場にして硬いクモの巣のような増殖膜が張ってきて、膜が縮むことで網膜を引き剥がすような力が加わり、
ものが歪んで見えたり、視野が狭くなったりして視力が下がってしまいます(牽引性網膜剥離)。
あるいは、目の中を循環している水の流出路に新生血管が生えると、排水管が目詰まりを起して眼圧が高くなり、
緑内障を引き起こすこともあります(血管新生緑内障)。
網膜の中心で視力の感度の良い部分を黄斑といいます。この部位にむくみがでたり、
充分な血液がいきわたらなくなるなどすると視力が下がってしまいます(糖尿病黄斑症)。
これは軽症の場合でもみられます。全く見えなくなることはありませんが、字を読んだり、細かい作業をすることが出来なくなってしまいます。
逆に重症になっても黄斑の状態が良いと、見え難くなることはないため自分では気がつきません。
自分で見え方に異常を感じたときには、すでに病気が進行していることが多いため、
自覚症状がなくても定期的に眼底検査を受けることが必要です。
また、ある程度以上に病気が進行した場合は、網膜の血管の障害の程度や範囲、血液の循環が悪くないか、
新生血管が生えてきていないかなどを詳しく調べるために造影剤を用いた眼底検査を行う必要があります(蛍光眼底造影検査)。
糖尿病網膜症の治療でまず必要なことは、血糖値を下げることです。
血糖値が高いことが原因でこのようなことが起こっているため、内科と連携して血糖値を下げて糖尿病という病気自体を改善させることが、
網膜症の予防や進行しないようにするのに有効だということが分かっています。
軽症の場合は内科の治療が主になり、眼科では数ヵ月毎に定期的に眼底検査を受けるだけです。
しかし、病気が進行してしまった場合は、内科の治療だけでは充分ではありません。
血液の成分が漏れ出たり、血管がつまって循環が悪くなり酸素不足になってしまった場合や、
新生血管が生えてきた場合は網膜光凝固治療が必要になります。
網膜光凝固治療は新生血管の発生を抑え、すでに発生している場合は新生血管の勢いを抑え、
重症な網膜症に進行することを避けるために必要な治療です。もし病気が進行して手術治療が必要になった場合でも、
術前の光凝固施行の有無は手術の難易度や術後経過にも影響します。
新生血管が破れて硝子体が血液で濁ってしまったり、増殖膜により物が歪んで見えたり、網膜剥離のために
視力が下がってきた場合は硝子体手術が必要になります。
硝子体手術では出血などの混濁や、網膜に癒着した増殖膜などを取り除き、網膜剥離を治して光凝固を追加し、
病気を落ち着かせることが出来ます。術後経過は順調でも視力の改善はゆっくりで、平均すると半年以上かかることが多いようです。
網膜の中心部である黄斑にむくみがでて見え難くなった場合、いくつかの治療があります。
むくみの原因がはっきりしている場合(局所性浮腫)は、光凝固治療が効果的です。
全体的にむくみがある場合(びまん性浮腫)には、眼球の周囲や、眼球内に薬を注射する方法がありますが、
薬の効果が切れると再発してしまうことがあります。
硝子体手術により浮腫を減らすこともある程度可能ですが、視力改善には限界があります。
最近では硝子体手術などの治療法が進歩したため、糖尿病網膜症によって全く視力を失ってしまうような事は
以前に比べると少なくなってきましたが、一旦悪くしてしまった場合は最新の様々な治療を行っても、
生活に有用な視力を維持することは容易ではありません。
そのため、あたりまえのようですが、軽症のうちから糖尿病の内科的治療と眼科の定期的な診察を怠らないようにすることが重要です。